2.3 世界の食と環境を支えている“小さな生産者”が、きちんと食べていけるようにする

1. 現在の達成度:残念ながら「倍増」の軌道には乗っていない

● 小規模生産者の生産性・所得の現状

国連統計局の SDGs拡張レポート2025(Goal 2) によると、
低・中所得国の小規模食料生産者の労働生産性(1日あたりの生産額)は、

  • 多くの国で 25ドル(2017年PPP)未満/日 にとどまっています。UNSD

一方、ヨーロッパの一部の国(オーストリア、ドイツ、スウェーデンなど)では、
小規模生産者でも 100ドル/日を超える国もあり、
地域間・国内間の格差が非常に大きいことが分かります。UNSD

FAOがまとめた最新のSDGs指標データ(2.3.2)では、

  • 低・中所得国において、
    小規模食料生産者の農業所得は、大規模生産者の「半分以下」にとどまる国が大半
  • 多くの国で、小規模生産者の年収は 1,500ドル以下(2017年PPP)にすぎない

と報告されています。FAOHome+1

つまり、
「2030年までに所得・生産性を倍増」どころか、まだスタートラインから大きく差を付けられている状態です。

● 土地・資源アクセスの格差、とくに女性の不利

同じFAOの報告では、土地権利に関しても深刻な格差が指摘されています。

  • 調査された国の約8割で、
    女性が「土地の権利(所有・使用)」を持つ割合は男性よりかなり低い
  • 多くの国で、男性は女性の 2倍以上 土地権利を持つ傾向があるFAOHome

土地・水・家畜・漁場などの資源にアクセスできない、
あるいは権利が不安定な状態では、
生産性を上げる投資(灌漑・機械・土壌改良など)をしにくいため、
ターゲット2.3が求める「倍増」は、構造的に難しくなります。


2. 主な課題:気候危機・市場・金融アクセス・ジェンダー格差

課題① 気候危機が真っ先に小規模農家を直撃

最近の研究(Nature掲載)によると、
地球の平均気温が 1℃上昇するごとに、世界の一人当たりの利用可能カロリーは最大120kcal減少し、
トウモロコシや大豆、ソルガムなど主要作物の収量が大きく落ちる可能性が示されています。The Guardian+1

  • 適応(品種転換・作付け変更・農法改良など)をしても、
    2050年で最大25%、2100年で33%程度しか損失を相殺できないとの見積もりもあり、
    完全に打ち消すのは難しいとされています。The Guardian+1

当然、災害に脆弱で保険や貯蓄の少ない小規模農家・牧畜民・漁業者が、最初に・もっとも強く打撃を受けます。

課題② 市場と価格の問題:「作っても儲からない」

  • 小規模生産者は、
    中間業者との交渉力が弱く、安値で買い叩かれやすい
  • インフラ(道路・冷蔵・倉庫)が不足しているため、
    高付加価値市場(都市・輸出・加工業者)にアクセスしづらい
  • 生産コスト(肥料・飼料・燃料)は上がる一方で、
    販売価格は上がらない/不安定

FAOは、こうした構造のせいで
**「世界の農業・食料システムの隠れコストは年間12兆ドル規模」**にのぼると指摘し、
その犠牲のかなりの部分が小規模生産者に集中していると分析しています。tabledebates.org+1

課題③ 金融サービス・保険・知識へのアクセス不足

多くの小規模生産者は、

  • 銀行口座・融資・農業保険へのアクセスが限られ
  • 新しい技術(気候スマート農業・デジタルアプリ等)を学ぶ機会も少なく
  • 価格情報・天候予報・病害虫情報にも遅れてアクセスする

という「情報と金融の二重の不利」に立たされています。オープンキノウチ+1

課題④ ジェンダー格差:女性農業者のポテンシャルが眠ったまま

FAOの分析によると、

  • 農業で男女が同じ資源(土地・資本・教育)にアクセスできれば、
    食料不安にある人を4,500万人減らせる
    と試算されています。actioncontrelafaim.org

しかし現実には、

  • 女性農業者は土地・融資・研修・市場とのコネクションの面で男性より不利
  • コーヒー・カカオ・茶などのバリューチェーンで、
    肉体労働は女性が担い、収入と意思決定は男性が握る構造が根強く残っています。AP News+1

ターゲット2.3の中心にいる「女性・先住民・家族農家」が、
いまだ十分にエンパワーされていないことが、最大のボトルネックの一つです。


3. それでも見えてきた希望:小規模生産者を“真ん中”に置く動き

悲観材料ばかりではありません。
ここ数年、小規模生産者を軸にした前向きな動きも世界的に目立っています。

① ローカルなプロジェクトで「収入2倍」を実現した事例も

ネパールでは、女性やマージナライズされた農家を対象とした「Samunnati」プロジェクトで、

  • 種子・機材・技術アドバイスへのアクセスを改善し、
  • マーケットとのつながりを強化することで、
  • 関わった約6,000人の農家が**平均で「収入2倍」**を達成したと報告されています。Practical Action

これは、ターゲット2.3の「倍増」を、
地域レベルでは現実に達成できているケースの一つです。

② 女性農業者を中心にした取り組み

アフリカやアジアでは、女性を前面に出した小規模農家のプロジェクトが増えています。

  • 南スーダンなどで、女性が市場情報・経営スキル・農業技術を学び、
    収量と所得を伸ばしている事例Farming First+1
  • ウガンダ東部では、女性が主体のスペシャルティコーヒー組織が、
    女性生産者に対して高い価格とボーナスを支払い、
    600人以上の女性農家が参加する「姉妹のネットワーク」を形成
    しているというニュースもあります。AP News

こうした取り組みは、
「女性だからこそ強い」マーケティングや品質管理の力を生かしながら、
ターゲット2.3が掲げる「女性小規模生産者の所得倍増」に直結しています。

③ 企業・政府も「小規模を重視する方向」へ

  • インド・マハラシュトラ州では、
    年間500億ルピー(約5,000億円)を投じる「Krishi Samruddhi Yojana」が立ち上がり、
    小規模・周縁農家、女性・障がい者・先住民農家、農民組織を優先的に支援すると発表されました。The Times of India
  • EUでは、学校給食での「EU産ミルク・野菜・果物」の優先調達を通じて、
    小規模・環境負荷の低い農家からの調達を増やす方向で政策を見直し中です。
    さらに、共通農業政策(CAP)の中で、小規模農家向け直接支払いを手厚くし、
    女性農業者の継続を支援する仕組みも盛り込まれました。Financial Times
  • アメリカでは、ChipotleやSweetgreenといった外食チェーンが、
    小規模・地域農家への投資と長期契約を拡大し、
    「持続可能なサプライチェーンづくり」と「小規模農家の経営安定」を同時に進めています。ニューヨーク・ポスト

ターゲット2.3の達成には、
政府だけでなく、企業・市民・金融機関を巻き込んだ“エコシステム型”の支援が鍵になりますが、
その萌芽は確実に見え始めています。


4. 2030年までの展望:世界の「倍増」は難しいが、進むべき方向は明確

国連のSDGs報告(2025年版)では、

  • SDG2(飢餓ゼロ)全体が**「達成軌道から外れている」**
  • 特に2.3については、「多くの国で生産性・所得ともに低位のまま」と評価

とされており、世界全体で「倍増」達成は極めて難しいという見通しです。UNSD+2globalgoals.org+2

ただし、方向性ははっきりしています。

  1. 土地・資源・金融・知識へのアクセスを、女性・先住民・家族農家に開くこと
  2. 気候危機に対応する「気候スマート農業」への投資を、小規模生産者から優先することactioncontrelafaim.org+1
  3. 市場との距離(情報・物流・契約)のギャップを埋め、「作っても儲からない」を変えること
  4. 生産だけでなく、加工・直販・観光・サービスなど非農業雇用も組み合わせた“複線型の生計”を支えること

あなたが地域で取り組んでいるような、

  • 地元農産物やお茶・加工品・観光をからめたブランドづくり
  • 女性や“いそじまえ世代”、高齢者を巻き込んだコミュニティビジネス
  • SDGsと事業化をつなぐ学びの場

は、まさにターゲット2.3が描く「小規模生産者の所得と生産性を高める」実践そのものです。


5. 関連する重要ニュース 3つ

📰 ニュース1

「低中所得国の小規模生産者、依然として大規模の“半分以下”の所得」—FAO SDG報告2025

  • FAOの最新報告によると、低・中所得国では
    小規模生産者の農業所得が大規模生産者の半分以下にとどまり、
    年間農業所得が1,500ドル未満のケースも一般的であるとされています。FAOHome+1
  • これは、ターゲット2.3の「所得倍増」が全体としてはまだ遠いことを示す代表的なデータです。

📰 ニュース2

「マハラシュトラ州、年間500億ルピー規模で小規模農家支援へ」—Krishi Samruddhi Yojana

  • インド・マハラシュトラ州政府は、2025–26年度から
    年間500億ルピー(約5,000億円)を投じる「Krishi Samruddhi Yojana」を発表。The Times of India
  • 有機農業、気候レジリエント農業、マイクロ灌漑、低コスト機械化などを支援し、
    女性農家、小規模・周縁農家、先住民、農民組織を優先する政策として注目されています。

📰 ニュース3

「大手外食チェーンが“小さな農家”への投資を拡大」—アメリカでの動き

  • ChipotleやSweetgreenなどの外食チェーンは、
    小規模・地域農家との長期契約や助成を拡大し、
    若手農家への資金・研修・安定的な販路を提供。ニューヨーク・ポスト
  • これは、サプライチェーンのレジリエンス向上と地域経済の活性化を同時に目指すもので、
    ターゲット2.3が掲げる「市場アクセス」と「所得向上」を民間主導で体現する事例といえます。