2.2 5歳未満の子どもの発育阻害や消耗性疾患について国際的に合意されたターゲットを 2025 年までに達成するなど、2030 年までにあらゆる形態の栄養不良を解消し、若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者の栄養ニーズへの対処を行う。
1. 今どこまで来ている?:子どもの栄養は「前進」と「停滞」が同時進行
● 5歳未満児:発育阻害・消耗症・過体重
UNICEF・WHO・世界銀行の最新共同推計(JME 2025)によると、2024年時点で世界では:世界保健機関+2UNICEF DATA+2
- 発育阻害(身長が年齢に比べて低い)
- 5歳未満児の 23.2%(約1億5,020万人)
- 消耗症(やせ/重度の急性栄養不良)
- 5歳未満児の 6.6%(約4,280万人)
- うち 1.9%(約1,220万人)が重度消耗症
- 過体重(肥満傾向)
- 5歳未満児の 5.5%(約3,550万人)
発育阻害は
2012年:26.4% → 2024年:23.2% と、ゆっくりですが改善してきました。日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)+2FAOHome+2
一方で、
- 消耗症の割合は ほぼ横ばい
- 過体重・肥満の割合も 微増
と、「栄養不足」と「過栄養」が同時に広がる“二重の栄養不良” が問題になっています。日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)+2WFP世界食糧計画+2
● 2025年までの国際栄養ターゲット(WHA目標)は達成できたのか?
WHOの「世界栄養目標」では、2025年・2030年に向けて次のようなターゲットを掲げています。世界保健機関+1
- 5歳未満児の発育阻害:
→ 2025年までに人数を40%削減 - 消耗症:
→ 5%未満に - 5歳未満児の過体重:
→ 5%未満に抑える - 低出生体重:
→ 30%削減 - 女性(15〜49歳)の貧血:
→ 50%削減 - 生後6か月未満の完全母乳育児:
→ 大きく増加させる
しかし、WFPが紹介したSOFI 2024の分析では、
「2030年までに掲げられた7つの世界栄養目標のいずれも、現在のペースでは達成の見込みが立っていない」
とされています。WFP世界食糧計画+2FAOHome+2
2. 子ども以外の栄養:若年女子・妊産婦・高齢者
● 若年女子・妊婦・授乳婦:貧血と低出生体重
UNのSDG統計によれば、
- 生殖年齢の女性(15〜49歳)の貧血率は、2012年27.6% → 2023年30.7%へ“悪化”
- 世界で 5億人以上の女性 が貧血の状態にあると推計されています。世界保健機関+3ユニセフ+3SDGs Portal+3
貧血は、
- 母体の健康悪化
- 早産・低出生体重・新生児死亡リスクの増加
につながり、世代をまたいだ悪循環を生むとWHOは警告しています。世界保健機関+1
また、SOFI 2024では、
- 世界全体の低出生体重児の割合は約15%で停滞し、改善スピードが遅いと指摘されています。WFP世界食糧計画+1
● 完全母乳育児は前進中
良いニュースもあります。
- 生後6か月未満で完全母乳育児を受けている乳児の割合は、2012年の37% → 2023年には47.8%へと大きく増加しています。日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)+1
これは、母乳育児の重要性への認知拡大や、各国の支援策の成果と考えられます。
● 高齢者:見えにくい「高齢期の栄養不良」
近年の研究によると、
- 世界の高齢者における栄養不良(低栄養)の有病率は約18.6%、
- 絶対人数では 約9,760万人 に達するとの推計もあります。サイエンスダイレクト+1
高齢者では、
- 収入減・孤立・咀嚼や嚥下の問題
- 慢性疾患・多剤併用
- 料理や買い物の負担
などが重なり、「量」だけでなく「質」の不足(タンパク質・ビタミン・ミネラル不足)が進みやすいことが指摘されています。smgg.es+1
ターゲット2.2は、本来こうした高齢期の栄養も視野に入れているのですが、
データも政策も、まだ「子ども・妊産婦」に比べて非常に薄いのが実情です。
3. なぜ「栄養不良ゼロ」がこんなに難しいのか?
課題① 紛争・気候危機・経済ショック
急性栄養不良(特に消耗症)は、
- 紛争で医療・食料・水・衛生が壊れる
- 干ばつや洪水で農作物・家畜が失われる
- 物価高・失業で食料が買えなくなる
といったショックと密接に結びついています。
2024年の分析では、53か国で2億9,500万人以上が「急性食料不安」に直面しており、これは5年連続で高い水準が続いていると報告されています。ユニセフ+1
課題② 資金不足:栄養プログラムが止まりかけている
UNICEFは2024年10月の声明で、
- 世界で約200万人の重度の急性栄養不良の子どもが、治療食への資金不足により命の危険にさらされていると警告しました。ユニセフ
さらに、WFPは2025年3月の報道で、
- 2025年の予算不足により、
56カ国・約3,000万人の母子を対象とした栄養不良予防・治療プログラムが停止または縮小の危機にあると発表しています。Reuters
「栄養不良を減らすための介入」が、
お金が足りないせいで、逆に“栄養不良を増やす要因”になりかねない、という非常に矛盾した状況です。
課題③ 二重・三重の栄養不良
世界では今、
- 低栄養(痩せ・発育阻害)
- 微量栄養素不足(鉄・亜鉛・ビタミンなど)
- 過体重・肥満
が、同じ国・同じコミュニティ・同じ家庭の中で同時に存在するケースが増えています。WFP世界食糧計画+2国連+2
例えば、
- 子どもは痩せていても、親は肥満
- カロリーは足りているが、鉄・ビタミン・タンパク質が不足
- 安価なジャンクフード中心の食事で「隠れ栄養不良」
こうした「複雑な栄養不良」を解くには、
単純なカロリー供給ではなく、食環境・教育・マーケティング・所得・ジェンダー格差など、多面的なアプローチが必要です。
4. 今後の展望:2030年までに何を優先すべきか?
現実的に見て、
- 2025年の世界栄養目標はほぼ達成困難
- 2030年までに「すべての栄養不良ゼロ」も このままでは不可能
というのが、国連の共通認識です。WFP世界食糧計画+2FAOHome+2
それでも、方向性はかなりはっきりしてきました。
展望① 「ダブルデューティ・アクション」
最近の栄養政策では、
「一つの介入で、低栄養と過栄養の両方に効かせる」
ダブルデューティ・アクションが重視されています。UNICEF DATA+1
例:
- 母乳育児支援:
→ 乳児の感染症と将来の肥満リスクを同時に下げる - 学校給食の質向上:
→ 子どもの成長と学力、将来の生活習慣病予防にもつながる - 野菜・豆類・果物・ナッツなど「健康的な食品」へのアクセス改善:
→ 低栄養と肥満の両方を改善
展望② 「ライフコース全体」での栄養
ターゲット2.2は、
- 幼児
- 若年女子
- 妊婦・授乳婦
- 高齢者
を含む**「一生を通じた栄養」**をうたっています。
今後の10年で重要になりそうなのは、
- 思春期女子への栄養教育と鉄分補給
- 妊産婦のサプリメント、妊娠前からの栄養ケア
- 高齢者向けの食支援・孤立防止・口腔ケア
- ジェンダー視点を持った社会保護・現金給付と栄養プログラムの連携
など、「ライフステージごとの弱点」をきちんと押さえる政策です。世界保健機関+2世界保健機関+2
展望③ ローカルな実践が世界目標を動かす
あなたが取り組まれているような、
- 地域の食文化や農産物(お茶・伝統食・地元食材)を活かした事業
- 子ども・50歳前後・高齢者など「ライフステージ別の場づくり」
- SDGsを軸にした地域づくり・学びの場
は、まさに**「あらゆる形態の栄養不良」を減らすローカルなアクション**になり得ます。
グローバルな数字だけ見ると暗くなりがちですが、
実は世界の成功事例の多くは、
小さな町・地域・学校・コミュニティから生まれていることも事実です。
5. 関連する重要ニュース 3件
最後に、このターゲット2.2と特に関係が深い最近のニュースを3つ挙げます。
📰 ニュース1
「約200万人の重度栄養不良の子どもが資金不足で命の危機に」— UNICEFが緊急支援要請
- 2024年10月、UNICEFは
重度の急性栄養不良に陥った子ども約200万人が、治療用栄養食の資金不足により死亡リスクにさらされていると発表。ユニセフ - 治療食1人分は決して高額ではないにもかかわらず、援助削減とニーズ増大で供給が追いつかない状況が示されました。
📰 ニュース2
「資金不足で世界の子どもの栄養プログラムが中断の危機」— WFPが警鐘
- 2025年3月、世界食糧計画(WFP)は、
必要額14億ドルの資金ギャップにより、56カ国・約3,000万人の母子向け栄養プログラムが数カ月以内に停止の恐れがあると警告。Reuters - イエメン、アフガニスタン、シリア、コンゴなど、すでに栄養危機にある国々でのプログラム縮小が懸念されています。
📰 ニュース3
「イエメン西部沿岸で飢餓と重度栄養不良が“人災レベル”に」— UNICEFが“壊滅的危機”と表現
- 2025年3月、UNICEFはイエメン西部ホデイダ周辺について、
子どもの3分の1が重度・急性の栄養不良に苦しみ、
5歳未満の子どもの2人に1人と、約140万人の妊婦・授乳婦が栄養不良だと警告。Reuters - 10年以上続く紛争と援助削減により医療・食料・インフラが崩壊し、「完全に人災だ」と強く批判しています。

