1.b 貧困撲滅のための行動への投資拡大を支援するため、国、地域及び国際レベルで、貧困層やジェンダーに配慮した開発戦略に基づいた適正な政策的枠組みを構築する。
1. ターゲット1.bとは?「お金の出し方のルール」を変える目標
ターゲット1.bのカギになるキーワードは、
- pro-poor(貧困層に配慮した)
- gender-sensitive(ジェンダーに配慮した)
- policy frameworks(政策枠組み)
です。know-sdgs.jrc.ec.europa.eu+2agenda2030lac.org+2
単に「貧困対策の予算を増やそう」ではなく、
- その予算が本当に貧困層に届くような仕組みか
- 女性や女の子、ひとり親世帯など、不利になりやすい層をきちんと意識した設計になっているか
- 国レベル・地域レベル・国際レベルで、一貫した戦略とルールがあるか
を問うのが、この目標です。
国際指標としては、
**指標1.b.1「貧困層に配慮した公的社会支出(pro-poor public social spending)」**が紐付けられていて、
保健・教育・現金給付など、貧困層に厚く効く分野への政府支出を測る仕組みになっています。Our World in Data+1
2. 現在の達成度:考え方は広がったが、「見える数字」がまだ少ない
◆ SDGs全体:そもそも軌道から外れている
国連の 「SDGs報告書2024」 は、
- 全てのSDGsターゲットのうち
「達成軌道に乗っている」のはわずか17% - 多くのターゲットは「停滞」か「逆行」
と評価しており、SDG1(貧困)も例外ではありません。UNSD+1
ターゲット1.bも、「計測の難しさ」もあって、はっきり“順調です”とは言えない状態です。
◆ 指標1.b.1:データが揃っていない
指標1.b.1(貧困層に配慮した公的社会支出)は、
- 各国の保健・教育・直接給付などの支出のうち
「どれだけ貧困層に有利になるか」を見る指標ですが、Our World in Data+1 - 実際には、多くの国でまだデータが十分に整備されておらず、国際比較がしづらい
というのが現状です。
UN統計部のメタデータ更新(2025年4月)でも、
「多くの国では、1.b.1を算出するための詳細な財政データと貧困層別の分析が整っていない」
と記されており、**「どれくらい “pro-poor” なのかが見えにくい」**という問題が続いています。UNSD
◆ とはいえ:ジェンダーに配慮した戦略は広がりつつある
一方で、「ジェンダーに配慮した開発戦略」という意味では、大きな動きも出ています。
- 世界銀行は2024年に、**「Gender Strategy 2024–2030」**を採択し、
**「ジェンダー平等を加速させることが、貧困の終結と“住み続けられる地球”の前提条件だ」**と明言。ida.worldbank.org+3世界銀行+3世界銀行+3 - その中で、
- ジェンダーに基づく暴力の根絶と人材(ヒューマン・キャピタル)の向上
- 女性の経済機会の拡大
- 意思決定における女性リーダーの参画
を柱に、融資や分析・政策対話をジェンダー視点込みで設計していく方針を打ち出しています。世界銀行+1
UN Women の 「Gender Snapshot 2024 / 2025」 や SDG Gender Index 2024 でも、
- ジェンダー平等が実現しなければ、SDGsの74%のターゲットは達成できない
- 2019〜2022年の間、約40%の国でジェンダー関連の指標が停滞または悪化
- 2030年までにジェンダー平等を達成できる国はゼロ
と警鐘を鳴らしつつも、
「ジェンダー視点を政策の“標準装備”にしよう」という取り組み自体は広がっていることが示されています。国連女性機関+2Equal Measures 2030 -+2
3. 課題:きれいな戦略と「現場のギャップ」
ターゲット1.bが直面している大きな課題は、おおよそ次の3つに整理できます。
課題① 「ジェンダーは大事」と言いながら、予算がついてこない
UN Women の2025年の報告によると、
- 女性と女児の極度の貧困率は2020年以降ずっと10%のままで改善が止まり、
- 紛争・気候危機・食料高騰・援助削減・男女平等へのバックラッシュが重なり、
**「女性の権利は停滞どころか後退の危険すらある」**と警告しています。ガーディアン+1
同じ報告は、
軍事費は、ジェンダー平等を進めるために必要な年間4200億ドルの何倍にも達している
とも指摘しており、
「ジェンダーに配慮した政策」と言いながら、実際の予算配分は全く追いついていない現状が見えてきます。
課題② 債務と緊縮:一番削られるのが「貧困対策」と「ジェンダー政策」
国連の「Financing for Sustainable Development Report 2024」は、
- 開発途上国のSDGs資金ギャップは毎年4兆ドル規模
- 低所得国の債務返済コストは、2022年の260億ドルから
2023〜2025年には年間400億ドルまで増えると推計
と分析しており、返済のために社会支出を削らざるを得ない国が急増していると指摘しています。sdg.humanrights.dk+1
緊縮の中で、
- 社会保護・教育・保健
- 女性団体・コミュニティ組織
- ジェンダー予算・女性起業支援
といった「pro-poor・gender-sensitiveな支出」は、優先度を下げられやすいのが現実です。
課題③ データ不足と“見えない貧困・見えない女性”
指標1.b.1を含む多くの貧困・ジェンダー関連指標について、
- 多くの国で統計が性別・年齢・地域別に分解されていない
- インフォーマル経済・周縁化されたコミュニティの実態がつかめない
という問題が続いています。Our World in Data+2UNSD+2
これでは、
「誰に効く予算なのか」「誰が取り残されているのか」が分からず、
“勘と政治力学”で予算配分されてしまうリスクが高いままです。
4. 今後の展望:流れ自体は「ジェンダー × 貧困」をセットで捉える方向へ
厳しい現状はありつつも、ターゲット1.bについては前向きな兆しもはっきり見えています。
展望① 世界銀行・UNを中心に「ジェンダー × 貧困」の統合戦略
- 世界銀行のGender Strategy 2024–2030は、
**「ジェンダー平等を貧困削減と気候行動の中核に据える」**と明言し、
すべての国別支援・投資にジェンダー視点を組み込むことを義務づけつつあります。世界銀行+2ida.worldbank.org+2 - IDA(最貧国向け基金)の支援でも、ジェンダー成果のモニタリング・評価を強化していくことが掲げられています。ida.worldbank.org+1
UN Womenの2024年「World Survey on the Role of Women in Development」も、
**「ジェンダー対応型の社会保護・税制・予算編成が、貧困を減らしレジリエンスを高める最重要手段だ」**と繰り返し強調しています。国連女性機関+1
展望② ジェンダー予算(Gender-responsive Budgeting)が“普通の考え方”になりつつある
UN Womenや各国議会の報告では、
- すでに80か国以上が何らかの形で「ジェンダー予算」の仕組みを導入しており、lac.unwomen.org+1
- 予算書の中で「女性・貧困層にどう効くか」を明示させる
- 政策効果を性別・所得階層別に評価する
といった実践が広がりつつあります。
完璧からは程遠いものの、
「予算を“誰にとって公平か”の視点で見る」発想が、世界的に当たり前になりつつある
というのは、1.bにとって大きな追い風です。
展望③ ローカルレベルでの「pro-poor & gender-sensitive」実践
国レベルだけでなく、
- 地方自治体の開発計画
- 中小企業支援・スタートアップ支援
- 農村での生計向上プロジェクト
などでも、
「女性・若者・シングルペアレント・農村の小規模生産者にどう効くか」
を正面から組み込む事例が増えています。World Bank+2国連アジア太平洋経済社会委員会+2
あなたが携わっているような、
- 地域の“いそじまえ世代”や高齢者・子どもを巻き込んだプロジェクト
- 女性の仕事づくり・学びの場・コミュニティづくり
- SDGs × 事業化を通じたローカルな投資の呼び込み
も、まさに**「pro-poor & gender-sensitiveな枠組み」をローカルに具体化している例**といえます。
5. 代表的な関連ニュース 3つ
最後に、ターゲット1.b(貧困層・ジェンダーに配慮した戦略と政策枠組み)に深く関係する最近のニュースを3つ挙げます。
📰 ニュース1:UN Women「紛争・援助削減・ジェンダーバックラッシュで、女性の権利が停滞・後退の危機」
- UN Womenの最新報告では、
紛争の拡大、援助削減、ジェンダー平等への反発が重なり、
女性の権利が「停滞、あるいは後退の危険」に直面していると警告。ガーディアン - 2024年時点で、6億7,600万人の女性・女児が紛争地近くに暮らし、
食料不安や貧困の打撃をより強く受けていることが示されています。 - 報告書は、「ジェンダーに配慮した政策枠組みと十分な資金投入がなければ、SDGs全体が危機に陥る」と指摘。
📰 ニュース2:世界銀行「ジェンダー戦略2024–30」で“貧困+ジェンダー+気候”を一体で
- 世界銀行グループは2024年に新しいGender Strategy 2024–2030を採択。世界銀行+2世界銀行+2
- 方針として、
- ジェンダーに基づく暴力の根絶
- 女性の経済機会拡大
- 女性リーダーシップの強化
を、「貧困削減」と「気候行動」の中核に位置づけることを宣言。
- これは、ターゲット1.bが求める**「ジェンダーに配慮した開発戦略に基づく政策枠組み」**を、国際金融レベルで具体化する動きといえます。
📰 ニュース3:パキスタンの貧困削減が逆転——「構造改革が伴わない成長モデル」の限界
- 世界銀行の報告によると、パキスタンでは
2001〜2015年にかけて貧困率が64%→22%へ大きく改善したものの、
その後の経済ショック・洪水・インフレ・構造改革の遅れによって、
2024年には再び25%へ悪化したとされています。Reuters - 都市のインフォーマル雇用に依存した成長モデルは、
ショックに弱く、社会保護やジェンダー視点の政策が弱いため、
「少しのショックで貧困に逆戻りする層」を大量に生み出してしまったと分析。 - これは、ターゲット1.bが求めるような**「貧困層・ジェンダーに配慮した包括的な開発戦略」がなければ、貧困削減は持続しない**という教訓的な事例です。

