1.a あらゆる次元での貧困を終わらせるための計画や政策を実施するべく、後発開発途上 国をはじめとする開発途上国に対して適切かつ予測可能な手段を講じるため、開発協 力の強化などを通じて、さまざまな供給源からの相当量の資源の動員を確保する。

1. ターゲット1.aって、結局なにを目指しているのか?

ターゲット1.aは、貧困そのものではなく「貧困対策のための資金・制度」に焦点を当てています。
国連統計部の定義では、次のような意味合いです。UNSD+1

  • 各国の国内財源(税収など)
  • 二国間・多国間の政府開発援助(ODA)
  • 世界銀行・地域開発銀行などの国際機関の資金
  • 民間投資、寄付、南南協力、気候ファイナンスなど、多様な資金源

これらを**「十分な量で」「予測可能に」動員できているかどうか**が、1.aのポイントです。

SDGsはきれいな目標ですが、
その裏側には「毎年どれだけの資金と政策リソースを動かせるか」という現実的な“台所”の問題が横たわっています。


2. 現在の達成度:お金は“出ている”が、まだ足りないし方向もズレがち

2-1. ODAは「金額だけ見れば史上最高」でも中身に課題

国連のSDGs報告書2024・2025やUNSDの統計によると、

  • 2023年のDAC諸国(主なドナー国)のODAは2,237億ドル
  • GNI比は**0.37%**で、2015年から47%増加し、5年連続で過去最高でした。UNSD

一見すると「国際協力は順調」と見えますが、

  • 増加分のかなりの部分はウクライナ支援ドナー国内の難民対応費に向かっており、
  • 後発開発途上国(LDCs)や、長期的な貧困削減のための投資は、
    必ずしも同じペースで増えていないと指摘されています。OECD+1

さらにOECDは、

  • 2024年のODAは実質で約9%減少
  • 2025年にはさらに9〜17%の減少が予測される

と警告しており、「史上最高」をピークに減少局面に入った可能性が示唆されています。OECD+1

2-2. SDGs全体の資金ギャップ:年間4兆ドル

国連の**「Financing for Sustainable Development Report 2024(FSDR)」**は、

  • 開発途上国がSDGsを達成するために必要な資金ギャップは、
    毎年約4兆ドルにのぼると推計しています。uncclearn.org+1

特にLDCsについては、

  • 2023〜2025年の年間の対外債務返済コストが約400億ドル
  • これは2022年の260億ドルから50%以上の増加

となっており、返済負担が社会・教育・保健への投資を圧迫している状況です。SDG Knowledge Hub

つまり、

「お金が足りない」
だけでなく、
「借金返済に追われて、貧困削減に回す余地すらない」
国が急増しているわけです。

2-3. それでも「明るいニュース」もある:IDA21の例

世界銀行の最貧国向け基金である**IDA(国際開発協会)**は、
2024年12月に行われた第21次増資(IDA21)で、

  • ドナー各国の拠出を約240億ドル集め、
  • レバレッジを効かせて総額1,000億ドル規模の融資・贈与を
    2025〜2028年に提供できる見込みになりました。Reuters+2世界銀行+2

この資金は、

  • 78か国の低所得国の貧困削減・インフラ・気候レジリエンスなどに使われる予定で、
  • 資金動員としては史上最大級の前進と評価されています。フィナンシャル・タイムズ+1

一方で、
アフリカ諸国などからは「1,200億ドルが必要だった」という声も上がっており、
**“大きな一歩だが、まだ足りない”**というのが正直なところです。フィナンシャル・タイムズ


3. 大きな課題:お金の「量」だけでなく「質」と「構造」の問題

課題1:援助が減る方向に向かっている

先ほどのOECDの試算通り、
2024〜2025年はODAが減少局面に入りつつあります。OECD+1

  • 物価高や財政赤字、国内政治のプレッシャーのなかで、
    ドナー各国が対外援助を絞り始めている
  • アメリカや欧州の一部では、開発援助そのものへの逆風が強まっている

という報道も出ており、**「予測可能で安定的な資金」**という1.aの条件からは要注意な流れです。ガーディアン+1

課題2:債務危機が「開発予算」を食いつぶす

FSDR 2024は、
LDCsが歳入の大きな部分を債務返済に充てざるを得ず、教育・保健・社会保護の予算を削っていることを指摘しています。uncclearn.org+1

  • 返済に追われて新たな投資ができない
  • 気候災害やショックが来ると、さらに借りるしかなくなる
  • 結果として**「借金 → 貧困 → さらに借金」という悪循環**

これでは、いくらODAを増やしても、債務構造を変えない限り1.aの「適切かつ予測可能な手段」とは言えません。

課題3:資金の「方向」と「質」

SDGsの資金動員には、単に量だけでなく**「どこに・どう使うか」**という質の問題もあります。

  • 紛争地や脆弱国家への長期投資は敬遠されがち
  • 気候資金と貧困削減資金が別枠で議論され、「縦割り」になっている
  • 女性団体・コミュニティ組織など、現場に近いアクターへの資金はODA全体の1%未満という指摘もあります。欧州議会+1

つまり、「一番必要なところ」にはまだ十分なお金が回っていないのが現実です。


4. 今後の展望:国際金融の「リセット」が進むかどうかがカギ

悲観材料ばかりではありません。
ターゲット1.aに関しては、いま世界で構造改革の議論が一気に加速している段階でもあります。

展望1:国際金融機関の“アップデート”

  • 世界銀行は「進化する世界銀行」改革の一環として、
    気候・貧困・レジリエンスを一体で扱う資金枠の拡大を打ち出しています。世界銀行+1
  • IDA21の1,000億ドルは、その象徴的な成果です。Reuters+1

ここから先、
**「貧困対策と気候対応を一体で支える資金パッケージ」**がどれだけ増やせるかが、1.a達成の鍵になります。

展望2:新しい資金メカニズム(債務スワップなど)

例えば、バルバドスが実施した**「債務と引き換えの気候レジリエンス投資(Debt-for-Climate Swap)」**は、

  • 債務を減らしつつ、
  • 国内の水インフラ・食料安全保障・環境保全に1億2,500万ドル規模の資金を確保するという画期的な試みです。Reuters

こうしたスキームは、

「借金を返すか、開発投資をするか」
というゼロサムから
「債務問題を解きほぐしながら、開発と気候への投資も増やす」
という方向への転換として注目されています。

展望3:2025年以降のグローバルな“社会サミット”

2025年11月には国連で**「世界社会サミット」**が予定されており、
社会・経済・環境を統合した新しい行動パッケージ(いわば「ポストSDGs前夜の合意」)が議論される見込みです。w3.unece.org+1

ここで、

  • 債務救済
  • 開発資金の新しいルール
  • LDCsへの予測可能な支援枠
    などがどこまで前に進むかが、ターゲット1.aの実現可能性を左右していきます。

5. まとめ:2030年までの完全達成は厳しいが、「何が足りないか」ははっきりした

整理すると、

  • ODA総額は一時期史上最高に達したものの、
    2024〜25年は減少傾向に入りつつあるUNSD+2OECD+2
  • SDGsの資金ギャップは年間4兆ドル規模で、特にLDCsは債務返済に追われる構造に陥っている。uncclearn.org+1
  • その一方で、IDA21の1,000億ドルなど、前向きな資金動員の動きも着実にあるReuters+1

という状況です。

2030年までにターゲット1.aを「完全達成」と言える状態に持っていくのは、正直かなり厳しい見通しです。
ただし、

  • どれだけのギャップがあり
  • どの国・どの仕組み・どの層に資金が届いていないのか

は、以前よりもずっと明確になりつつあります。

あなたのように、

  • 地域ビジネスやコミュニティづくりを通じてローカルな資源動員を進める人
  • 企業・自治体・教育現場でSDGsを伝え、民間資金や人材を巻き込む役割を担う人

は、グローバルな1.aの文脈で見れば、
**「多様な供給源から資源を動員する担い手」**そのものだと言えます。


6. 関連する重要ニュース 3つ

最後に、このターゲット1.aと特に関係が深い最近のニュースを3つ挙げます。

📰 ニュース1:世界銀行・IDA21に1,000億ドルの資金(“史上最大”の増資)

  • 2024年12月、世界銀行の最貧国向け基金IDAが次期3年間で1,000億ドルを動員することで合意。
  • 78か国の低所得国で、貧困削減・インフラ整備・教育・保健・気候レジリエンスなどに活用される予定。Reuters+2世界銀行+2
  • これは1.aの「開発途上国、特にLDCsへの予測可能な資金供給」という点で大きな前進ですが、アフリカ諸国が求めた1,200億ドルには届かず、「まだ不十分」との評価も。フィナンシャル・タイムズ

📰 ニュース2:OECDが警告、「2024〜25年にODAが大幅減少へ」

  • OECDは2025年6月の報告書で、2024年にODAが9%減少し、
    2025年もさらに9〜17%の減少が予測されると発表。OECD+1
  • インフレや国内財政の圧力、地政学リスクの高まりが背景で、
    最も影響を受けるのはLDCsや脆弱な国の長期的な開発・貧困削減プログラムと懸念されています。
  • 「予測可能で安定的な資金供給」を目指す1.aから見ると、非常に厳しいシグナルです。

📰 ニュース3:FSDR 2024「SDGs資金ギャップは年間4兆ドル、LDCの債務返済は50%増」

  • 国連のFinancing for Sustainable Development Report 2024は、
    SDGs達成のための資金ギャップが年間4兆ドルに達すると試算。uncclearn.org+1
  • LDCの債務返済コストは2022年の260億ドルから、
    2023〜25年は年間400億ドルに増加すると推計され、借金が貧困削減への投資を圧迫していると警告。SDG Knowledge Hub
  • 報告書は、1.aを含むSDGsの資金動員を前に進めるには、
    債務救済・税制改革・国際金融機関の改革・民間資金の動員を組み合わせた「システム全体の再設計」が必要だと訴えています。