1.5 2030年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築し、 気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に 暴露や脆弱性を軽減する。
1. いま何が起きているのか:災害の「量」と「質」が変わっている
まず押さえておきたいのは、災害リスクそのものが増大しているという現実です。
国連の報告によれば、
2014〜2023年の10年間、毎年平均1億2,400万人が災害の影響を受けており、過去10年比で約75%増加しています。COP30 Brasil
さらに、SDGs報告書やUNDRR(国連防災機関)の分析では、
- 気候変動による熱波・洪水・干ばつ・巨大サイクロンが増加
- 一度の災害で受ける打撃が大きくなり、「貧困からの脱却」が何度も振り出しに戻る
- 特に後発開発途上国(LDC)と小島嶼国(SIDS)が、人口に比べて不釣り合いな被害を受けている
と指摘されています。COP30 Brasil+2UNSD+2
2025年版SDGs報告書でも、
**「気候ショック・紛争・経済危機が重なり、極度の貧困が再び増加し、ハンガー人口もコロナ前より1億人以上増えた」**とされています。UNSD+1
つまり、ターゲット1.5が目指す「レジリエンス構築」は、
いまや“あれば良い”ではなく“やらないと破綻する”レベルの必須条件になっているわけです。
2. 現在の達成度:早期警報は進んだが、「一番弱いところ」がまだ穴だらけ
ターゲット1.5には、主に以下の指標が紐づいています。UNSD+2agenda2030lac.org+2
- 1.5.1 災害による死者・行方不明・被災者数(人口10万人あたり)
- 1.5.2 災害による経済的損失(GDP比)
- 1.5.3 国レベルの防災戦略の有無(国家・地方)
- 1.5.4 災害リスク削減戦略を持つ地方自治体の割合
さらに、**早期警報システム(Early Warning Systems)**の整備状況は、SDGsと同時に「仙台防災枠組み」でも重視されています。
◆ 早期警報システム:国レベルでは前進
UNDRRとWMOが2025年に出した「Multi-Hazard Early Warning Systems 2025」レポートによると:World Meteorological Organization+1
- 119か国(世界の約60%)が、多災種早期警報システム(MHEWS)の存在を報告
- 2015年から見ると2倍以上(113%増)
- システムの「総合性(4つの柱がどれだけ機能しているか)」は、2015年比で平均45%改善
- 早期警報が“十分に整った国”は、
そうでない国に比べて災害死亡率が約6分の1、被災者数も約4分の1
つまり、早期警報そのものは確実に効果を上げていることがデータからも裏付けられています。World Meteorological Organization+1
◆ それでも「レジリエンスが足りない」理由
それでも、SDGs報告書は**ターゲット1.5を含む多くの目標が「軌道から外れている」**と評価しています。UNSD+1
理由はシンプルで、
- 早期警報があっても、避難先や保険、社会保護がなければ生活は守れない
- そもそも貧困層が住むのは、
洪水・地滑り・高潮など危険な土地になりがち - 災害の頻度・強度が上がり、復旧が終わる前に次の災害が来る
など、構造的な脆弱性が解消されないまま、ショックだけが強まっているからです。sdgasiapacific.net+2OECD+2
3. 主な課題:気候危機・資金不足・「取り残されるコミュニティ」
課題① 気候危機が「レジリエンスの限界」を超え始めている
- UNの気候関連報告では、2024年は観測史上最も暑い年となり、
危険レベルの高温日数が世界平均で“41日分”増えたと分析されています。AP News+1 - 熱波は、洪水や暴風よりも統計上「最も致死性の高い」極端現象とされ、
特に都市の高齢者・屋外労働者・貧困層を直撃しています。AP News+1
ヨーロッパでも2024年は記録的な猛暑と洪水の年で、
40万人以上が洪水・暴風の被害を受け、少なくとも335人が死亡、被害額は180億ユーロ以上に達したと報告されています。ルモンド
こうした「新しいレベルの極端現象」は、
従来の防災・インフラ設計の前提を超えてしまい、
「適応(アダプテーション)そのものの難易度」を引き上げていると言えます。
課題② 脆弱国ほど被害は大きいのに、資金は足りない
UNHCRの2025年報告によると、
過去10年で気候関連災害により2億5,000万人が避難を余儀なくされ、1日あたり約7万人が気候災害で家を追われた計算になります。ガーディアン
- こうした「気候・災害ディスプレイスメント」は、
もともと脆弱な国・地域に集中 - しかし、気候資金のうち、最も脆弱な国々が受け取る比率はごく一部にすぎない
UNDRRの最新「GAR 2025」もまた、
**「災害リスクへの投資は、命もお金も確実に救うが、現状では全く規模が足りていない」**と警告しています。UNDRR+1
課題③ “Early Warning for All” の「All」がまだ実現していない
早期警報システムを持つ国は増えましたが、
- 小島嶼国や一部の後発開発途上国では、システム自体が未整備
- あっても、現地の言語や文化に合った形で伝わらず、避難行動につながらない
- 情報通信・電力・道路など、「逃げるためのインフラ」が不十分
など、「紙の上では早期警報があるが、現場では機能していない」ケースも多く報告されています。ReliefWeb+2World Meteorological Organization+2
4. 今後の展望:レジリエンス構築は「コスト」ではなく「投資」
暗い話ばかりではありません。ターゲット1.5に関しては、方向性がかなり明確になってきたとも言えます。
展望① 「Early Warnings for All」イニシアチブ
国連は2022年に**「Early Warnings for All」**を立ち上げ、
2027年までに“地球上の全員”を早期警報で守るという目標を掲げました。国連+1
- 早期警報への1ドル投資は、10ドル以上の損失を防ぐとも試算されており、World Meteorological Organization+1
- 「防災への投資=レジリエンスへの投資」は、
経済合理性の面でも支持が広がっています。
展望② レジリエンスを「開発の標準」にする動き
UNDRR「GAR 2025」は、
2050年までの災害リスクを見据え、“レジリエンスを前提にした投資・都市計画・インフラ整備”への転換を強く求めています。UNDRR+1
すでに各地で、
- 洪水に強い都市設計(グリーンインフラ、遊水地、ブルーグリーンネットワーク)
- 農村部での気候適応型の農業・水管理
- コミュニティ主体の防災・避難計画
といった実践が広がっており、例えばチャドでの「ローカル開発&適応プロジェクト」は、貧困削減と防災・気候適応をセットで進める事例として紹介されています。globalallianceagainsthungerandpoverty.org+1
展望③ ローカルなビジネス・コミュニティの役割
貧困層や脆弱層のレジリエンスは、
- インフラだけでなく、地域の仕事・ネットワーク・コミュニティに大きく左右されます。
あなたが関わっているような、
- 地域資源を活かした事業(お茶・観光・歴史資産など)
- 高齢者や子ども、50歳前後の“いそじまえ世代”を支えるコミュニティ
- SDGsとビジネスを掛け合わせた学びの場・ネットワーク
は、災害が来ても「孤立しない」「収入源が一つに偏らない」地域づくり=レジリエンスの土台になり得ます。
ターゲット1.5は、
「災害が来ても壊れない社会」をどう設計するか
という問いでもあり、
「地域のしなやかさ」をどうビジネスと結びつけるか
という、まさにユーザーさんのフィールドそのものでもあります。
5. 関連する代表的なニュース 3件
最後に、このターゲット1.5の文脈で押さえておきたい重要ニュースを3つ挙げます。
📰 ニュース1:気候災害で「10年で2億5,000万人が家を失う」
- 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の新報告によると、
過去10年間で気候関連災害により2億5,000万人が避難を余儀なくされ、1日あたり約7万人が“気候難民”になっているとされています。ガーディアン - 洪水・嵐・干ばつ・極端熱、さらには砂漠化や海面上昇といった「徐々に進行する危機」が、紛争と結びついて複合的なディスプレイスメントを生んでいることも指摘。
- 脆弱国ほど影響が大きいのに、必要な気候資金の4分の1しか受け取れていないという不均衡も強調されています。
📰 ニュース2:ヨーロッパで最悪級の洪水・熱波・山火事(2024年)
- コペルニクス気候変動サービスとWMOの共同報告によると、
2024年はヨーロッパ史上最も暑い年で、洪水・嵐・山火事が相次ぎ、
41万3,000人以上が被災、335人が死亡、被害額は少なくとも180億ユーロとされています。ルモンド - 熱波の日数は過去最長、氷河の損失も世界最大級。
- 先進地域であっても、適応・レジリエンス強化なしには深刻な被害を避けられないことを示す象徴的な事例です。
📰 ニュース3:2024年、危険な高温日が「平均41日」増加
- World Weather Attribution と Climate Central の分析では、
人為的な気候変動により、2024年は世界平均で「危険な暑さの日」が41日分増えたと報告。AP News - 一部の地域では、年間150日以上が極端な暑さに分類され、
特に貧困層・屋外労働者・高齢者など脆弱な人々の健康と生計を直撃しています。 - 熱波は統計的に最も致死性の高い災害であり、レジリエンス構築の中心テーマが「洪水」から「熱」へ移りつつあるという指摘もなされています。

