1.4 2030年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、すべての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、 天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的 資源についても平等な権利を持つことができるように確保する。
1. 何を「平等に」するターゲットなのか?
ターゲット1.4が対象にしているのは、大きく分けて3つです。globalgoals.org+1
- 基礎的サービス(basic services)
- 安全な飲料水・衛生・電気・住居
- 医療・教育・情報通信(ICT)など
- 経済的資源への権利
- 土地や家などの財産所有権・相続権
- 森林・水源などの天然資源への利用権
- それらを守るための法的保護・登記
- 金融サービス・新しい技術へのアクセス
- 銀行口座・モバイルマネー・マイクロファイナンス
- デジタル技術・農業技術など「生計を強くする」ツール
つまり「貧困から抜け出すためのスタートラインに、みんなを立たせよう」という発想です。
2. 現在の達成状況:進んではいるが、2030年には全く足りないペース
2-1. 基礎的サービス:改善しつつも、いまだ“何十億人”単位で届いていない
国連のSDGs報告書2024によると、2015〜2022年の間に、世界では:UNSD+1
- 安全に管理された飲料水を利用できる人:
69% → 73% - 安全に管理された衛生施設:
49% → 57% - 基本的な衛生サービス(手洗い設備など):
67% → 75%
と、着実に改善しています。
しかし2022年時点でも、なお
- 22億人:安全な飲料水がない
- 35億人:安全な衛生施設がない(そのうち4.2億人が野外排せつ)
- 20億人:基本的な衛生サービスがない
という、桁違いの「取り残され」が残っています。UNSD
電気についても、2022年時点で世界の電化率は**91%**に達した一方、
6億8,500万人がいまだ電気なしの生活を送っており、しかも人口増の影響で「電気のない人の数」は2021年より1,000万人増える“逆転現象”が起きました。UNSD+1
2-2. 金融サービス・マイクロファイナンス:口座は増えたが「本当に使えている人」は限られる
世界銀行のGlobal Findex 2021によると:World Bank Blogs+1
- 成人の**約76%**が何らかの金融口座(銀行・モバイルマネーなど)を持つ
- 発展途上地域でも7割超が口座を持つようになった
- 2011年には2.5億人だった“口座なし(unbanked)”は、2021年には14億人まで減少
さらに、ジェンダー面では:
- 2021年の時点で、男女の口座保有率の差は世界平均で4ポイントまで縮小
- 2024年時点の最新ブログでは、
低・中所得国の女性の73%が口座を持つまでに拡大したと報告されています。ワールドバンク+1
一方で、
- いまだ14億人が金融システムの外にいる
- 特に農村部の貧困層・女性・若者が“取り残され組”
- 口座を持っていても、「貯蓄・投資・保険」までは使えていない人が多いWorld Bank Blogs+1
など、“口座はあるけれど、金融サービスを十分に活用できていない”層が厚いことも分かっています。
2-3. 土地・財産・天然資源への権利:特に女性の遅れが大きい
土地・財産の所有権は、貧困脱却のうえで非常に重要ですが、データはまだ限定的です。
UN WomenのGender Snapshot 2024では、
- 農地に関するデータがある49カ国のうち32カ国で、女性が所有者または権利保有者として占める割合は40%未満だと報告されています。国連女性機関
多くの国で、
- 相続時に女性が不利
- 慣習法や家父長的な慣行が、法制度より強く働く
- 共同名義・コミュニティ所有などが正式に記録されていない
といった問題があり、
**「権利はあるはずなのに、書類や登記で守られていない」**人が多数います。Open Knowledge +1
3. 主な課題:インフラ不足だけでなく、制度と文化の「見えない壁」
課題① インフラ&財源:そもそもサービスを届ける“器”が足りない
水道・電気・下水・道路・モバイルネットワークなどのインフラが整っていない地域では、
**「アクセスしたくても物理的にサービスがない」**という状態です。
- 2030年までに水・衛生・電気を“全員”に届けるには、
現在の数倍のスピードで投資を増やす必要があると国連は試算しています。UNSD+1 - しかし、低所得国ほど財政余力がなく、国際支援も十分とは言えません。UNSD+1
課題② 法制度と慣習のギャップ:紙の上の平等 vs 現実の不平等
- 憲法や民法上は「男女平等」となっていても、
実際には女性や特定の民族・部族に土地が渡らない - 相続時に、娘や妻が“黙って諦めることを期待される”文化
- 共同体の土地が外部資本に売却されても、住民が知らされない
といったケースが報告されています。Open Knowledge +2ランドポータル+2
加えて、近年は**ジェンダー平等そのものへの“バックラッシュ(反発)”**もニュースになっており、
紛争・援助削減・保守的な政治の台頭などが、女性の権利の進展を逆戻りさせているとの指摘もあります。ガーディアン
課題③ デジタル格差:技術があっても、使える人と使えない人に分かれる
モバイルマネーやオンラインバンキングは、金融包摂の“起爆剤”として期待されていますが、AFI - 金融包摂連盟+1
- スマホ・インターネット・デジタルリテラシーの有無
- 読み書き能力
- 銀行やデジタルサービスへの不信感
などが障壁になり、特に女性・高齢者・農村部ではデジタル金融の活用が進みにくいというデータがあります。ワールドバンク+1
「新技術へのアクセスを平等に」と言っても、
“使える前提条件”をそろえないと格差がむしろ広がる可能性があるわけです。
課題④ 紛争と気候危機:せっかく手にした権利や資源が失われる
- 紛争により、土地証書や登記が焼失する
- 難民・国内避難民になり、元の土地に戻れない
- 干ばつ・洪水で農地が使えなくなり、所有権はあっても価値が消える
など、**ショックによる「資源のリセット」**が世界各地で起きています。
こうした状況では、SDGsのターゲット1.4どころか、「昨日までの生活」の維持すら難しくなります。UNSD+2サイエンスダイレクト+2
4. それでも見える「希望のシナリオ」
悲観材料ばかりに見えますが、ターゲット1.4に関しては前向きな動きもはっきり出ています。
4-1. 金融包摂(Financial Inclusion)は、この10年で“大きく前進”
- 2011年から2021年の10年間で、
口座を持たない成人は25億人 → 14億人へとほぼ半減。World Bank Blogs+1 - 特にモバイルマネーが普及したサハラ以南アフリカなどで、
銀行のない地域の人々が一気に金融サービスにアクセスできるようになりました。Ferdi+1 - 女性の口座保有率も急伸し、「金融サービスへのジェンダーギャップ」は徐々に縮まりつつあります。ワールドバンク+1
**デジタル技術×公的給付(補助金・年金・賃金の口座振込)**をうまく組み合わせれば、
「貧困層・脆弱層に直接お金とサービスを届ける仕組み」がもっと広げられる可能性があります。
4-2. 土地権利を見える化する国・プロジェクトが増加
- 世界銀行やNGOは、**土地権利を個人単位・男女別に測る指標(SDG 1.4.2)**を整備し、
誰がどれだけ土地・財産を持っているのかを「見える化」し始めています。Open Knowledge +1 - いくつかの国では、女性名義の土地登記を促進したり、共同名義にインセンティブを付ける政策も進みつつあります(税制優遇など)。
データが整えば整うほど、
「どの国・どの地域・どの層で不平等が大きいか」がはっきりし、政策介入もしやすくなります。
4-3. 基礎サービスの拡大と「ローカルな解決」
- 再生可能エネルギーを使った分散型の電力供給(ソーラー、ミニグリッド)
- コミュニティ主導の水・衛生プロジェクト
- 公共交通・デジタル公共インフラの整備
など、「大規模インフラでは届きにくい地域」にローカルな解決策が広がりつつあります。IRENA+1
あなたが関わっているような、
- 地域資源(お茶・観光・歴史・文化)を活かしたローカルビジネス
- 女性・高齢者・若者の学び直しや起業支援
- コミュニティ内での助け合いとマイクロビジネスの支援
といった取り組みも、実はこのターゲット1.4の精神
「経済的資源・サービスへのアクセスを、地域レベルで平等にしていく」
ことに直結しています。
5. まとめ:2030年の完全達成は難しいが、「どこを変えればいいか」はだいぶ見えてきた
- 水・衛生・電気などの基礎サービスは改善しているものの、
いまだ数十億人単位でアクセスできない人々がいる。UNSD+1 - 金融包摂は大きく進んだが、14億人の未銀行化と、
「使いこなせていない口座」という課題が残る。World Bank Blogs+1 - 土地・財産・天然資源の権利では、特に女性の遅れが顕著。国連女性機関+2Open Knowledge +2
- SDGs全体で見ても、「軌道に乗っているターゲットは17%のみ」という報告が出ており、ターゲット1.4も例外ではありません。UNSD+1
それでも、
- 金融アクセス、デジタル技術、土地権利データなど、
“何をどう変えればいいか”がかなり具体的に見えてきた - いくつかの国・地域では、
女性の口座普及・土地権利・基礎サービスの拡大に成功した事例も蓄積されてきた
という意味で、ターゲット1.4は「まだ遠いが、方向性ははっきりしている目標」と言えます。
2030年まであと少し。
国連や各国政府だけでなく、企業・金融機関・自治体・市民が、
「この事業・このプロジェクトは、
貧困層や脆弱層のどんなアクセスの格差を埋めているのか?」
という問いを常に持ち続けられるかどうかが、
最終的な達成度合いを左右していくはずです。
- World Health Organization/UNICEF「1 / 4の人々が安全な飲料水にアクセスできていない」
- 発表日:2025年8月26日 世界保健機関+2UNICEF DATA+2
- 内容:世界の人々のうちおよそ 25 % が、安全に管理された飲料水サービスを利用できていないという報告。貧困層・脆弱層・農村部・先住民族が特にその状況に置かれている。 世界保健機関+1
- 関連性:ターゲット1.4で言う「基礎的サービスへのアクセス」のまさに核心です。水・衛生インフラが整っていなければ、経済的・社会的な資源へのアクセスも困難になります。
- Rights and Resources Initiative「女性の土地・森林・天然資源に対する権利が世界南部で依然弱い」
- World Bank「Global Findex 2025:女性の金融口座保有率が低・中所得国で73%に」
- 公表日:2025年7月16日 Accion+2World Bank Blogs+2
- 内容:低・中所得国において、女性の金融口座保有率が 73% に達し、過去10年で大きく改善していることが報告されています。ただし、口座を持っていても実際に活用されていない、あるいは支払い・貯蓄・クレジット利用など「機能的な金融サービス」にはまだギャップあり、との分析も。 betterthancash.org+1
- 関連性:「マイクロファイナンスを含む金融サービスにアクセスできる」「経済的資源について平等な権利を持つ」というターゲット1.4の金融・技術側面を捉えています。

