「あらゆる次元の貧困」とは?ターゲット1.2の意味
ターゲット1.2は、お金だけでは測れない貧困を真正面から扱う目標です。
- 各国が自分たちの実情に合わせて定義した「貧困」(ナショナル貧困ライン)
- 収入だけでなく、
- 教育(就学・修了年数)
- 健康(栄養・乳幼児死亡など)
- 生活環境(電気・水・トイレ・住居の質)
- 雇用・社会保障・社会的孤立 など
へのアクセス不足も含めて測る「多次元貧困」
国連のSDGs指標では、このターゲットは
- 1.2.1:所得(各国独自の貧困線)による貧困率
- 1.2.2:各国の多次元貧困指標(MPIなど)による貧困率
の2つでモニタリングされています。Ophi+1
2. 現在の達成状況:前進と“失速”が同時に見えてきた
2-1. 世界の多次元貧困の現状
UNDPとオックスフォード大学が発表した**グローバル多次元貧困指数(Global MPI 2024)**によると、
- 対象112か国・人口63億人のうち、
- 約11億人(18.3%)が「急性の多次元貧困」にあると推計されています。Ophi+1
特徴的なのは:
- 貧困層の約84%が農村部に集中nextias.com
- 多次元貧困層の半数以上が「子ども」人間開発報告書+1
- サハラ以南アフリカと南アジアに世界の多次元貧困層の大半が集中ReliefWeb+1
つまり、「誰一人取り残さない」と掲げながらも、
地域・世代によって“取り残され方”に大きな偏りがあるのが現状です。
2-2. 各国の取り組みと進捗
最新のOPHI(多次元貧困の研究機関)のブリーフィングによると、
- 2024年7月時点で84か国がSDG指標1.2.2(多次元貧困)を公式に報告し、
- それらの国には約36.9億人が暮らしています。Ophi
そのうち、43か国(約29.7億人)が独自のナショナルMPIを採用し、
政策や予算配分に活用し始めています。Ophi+1
具体的な成功例も出ています。
- パラグアイ:2012〜2020年で多次元貧困率を**41.6%→24.9%**に削減
- ベトナム:同期間に**18.1%→4.4%**に大幅減少
- ブータン:2012〜2022年で**12.4%→2.1%**へ
- 南アフリカ:2001〜2016年で**17.9%→7.0%**へ
- インド:2015–16年~2019–21年にかけて、多次元貧困率を**24.9%→15.0%**に低下。直近10年間で「2億5,000万人が多次元貧困から脱した」と政府も発表Ophi+1
こうした国々は、教育・保健・インフラ・社会保護をパッケージで進めることで成果を上げています。
2-3. しかし全体としては「半減ペースに届いていない国が多数」
同じOPHIの分析では、
傾向値(トレンド)が取れる62か国を分析した結果、
およそ「半数〜3分の2の国が、現在のペースのままでは2030年までに多次元貧困を半減できない」とされています。Ophi
さらに、**国連「SDGs報告書2024」**によると、
- 全SDGsターゲットのうち**「達成軌道に乗っている」のはわずか17%**
- ほぼ半分のターゲットは「中程度〜深刻な遅れ」
- 一部は「2015年よりむしろ悪化」UNSD
貧困に関する目標1も、例外ではなく**全体として「大きく遅れているゴールの一つ」**と評価されています。
3. ターゲット1.2達成を阻む主な課題
3-1. データと測定のギャップ
- 2024年時点で、まだ114か国は1.2.2(多次元貧困)の公式指標を持たない状況です。Ophi
- 家計調査の頻度が低い、指標に必要な項目が入っていない、統計人材が不足している…といった理由で、
「現状が見えない → 政策も打ちづらい」という悪循環が生じています。Ophi
ターゲット1.2は「各国定義の貧困」を尊重している分、
国や地域ごとにデータの質・頻度がバラバラになりやすいという弱点もあります。
3-2. 紛争と不安定な政治情勢
世界銀行や最近の報道では、
- 2030年までに、世界の極度の貧困層の約60%が紛争影響国に集中するとの見通しが示されています。ウォール・ストリート・ジャーナル+1
- これらの国々では、1人あたりGDPが毎年マイナスになる一方、
他の開発途上国ではプラス成長という「二極化」が進んでいます。ザ・ガーディアン
紛争や政治不安が長期化すると、
- 学校・病院・インフラが破壊される
- 難民・国内避難民が増え、教育や仕事が断たれる
- 女性や子どもが暴力や搾取のリスクにさらされる
という形で、多次元貧困のあらゆる側面が悪化し、ターゲット1.2から遠ざかってしまいます。
3-3. 気候変動・災害と「新しい貧困層」
- 干ばつ・洪水・サイクロンなどの気候関連災害が、農業生産や生活基盤を破壊し、「新たな貧困層」を生んでいます。国連+1
- 都市部でも、エネルギー価格の高騰や住宅費の上昇によって、
「収入はあるが、まともな住宅や生活インフラにアクセスできない層」が増えています。
ヨーロッパなど高所得国でも、
- 社会排除や住居費高騰などを含めて測るAROPE指標で貧困を捉え直していますが、
- 例えばフランスでは2023年に過去30年で最も高い貧困・格差水準に達したとの報告も出ています。Ophi+1
つまり、「貧困=途上国の問題」という見方は、もはや成り立ちません。
3-4. 子どもの多次元貧困
最新の多次元貧困データを整理した分析によると、
- 世界では**子どもの約27.8%**が多次元貧困にあり、
- 大人の多次元貧困率(13.5%)の2倍以上に達しています。VISION IAS
学校に通えない、栄養が足りない、安全な住環境がない——
こうした子ども期の欠乏は、その後の就業機会や健康状態を通じて、貧困の「世代間連鎖」を固定化してしまいます。
4. 今後の展望:それでも見えてきている“希望のシナリオ”
厳しい現状がある一方で、ターゲット1.2に関しては前向きな兆しもはっきり見えています。
4-1. 「多次元貧困」を測り、政策に活かす国が急増
- 2015年のSDGsスタート時と比べると、
**ナショナルMPIを公式に採用する国は「急増」**しています。Ophi+1 - 多くの国が、
- 貧困層の居住地域(州・県・郡レベル)
- 年齢(子ども・若者・高齢者)
- 性別、職業、民族、障がいの有無
などで細かく分解して、「どの層が・何に困っているか」を可視化しています。Ophi
これは、
「とりあえず一律にバラまく支援」
から
「ボトルネックにピンポイントで投資する支援」
へのシフトを促す重要な基盤です。
4-2. 成功例から学べること
インドやベトナム、ブータン、パラグアイなど、
多次元貧困率を短期間で大きく下げた国々の共通点としては:
- 教育・保健・インフラ・社会保護をセットで進める
- デジタル技術を使って、給付やサービスを「漏れなく・ダブりなく」届ける
- 女性・子ども・農村部・少数民族など、取り残されやすい層に焦点を当てる
- MPI指標を国の開発計画や予算編成に組み込む
といった点が挙げられます。Ophi+2人間開発報告書+2
4-3. 日本やローカルな取り組みとの接点
ターゲット1.2は途上国だけの話ではなく、
日本のような高所得国でも「多次元の貧困」をどう減らすかという問いに直結しています。
- 子どもの貧困と教育格差
- 単身高齢者・シングルペアレント家庭の孤立
- 地方における交通・医療アクセスの不足
- 住宅・エネルギーコストの高騰
などは、まさに**「あらゆる次元の貧困」**の国内版と言えます。
たとえば、あなたが取り組まれているような
- 地域資源(お茶・歴史・文化)を活かしたローカルビジネス
- 50歳前後・高齢者・子どもなど特定層を支えるコミュニティづくり
- SDGs×キャリア・学び直し(リスキリング)の場づくり
は、「所得」だけでなく、つながり・学び・健康・働きがいといった多次元の面から貧困リスクを下げる実践だと言えます。
5. まとめ:2030年の“半減”は簡単ではないが、「どこから減らすか」は見えてきた
- 多次元貧困の公式データを出す国は増え、
- 1.1億ではなく11億人規模の「急性の多次元貧困」が可視化され、
- その多くが子ども・農村部・紛争影響国に集中していることが分かってきました。VISION IAS+3Ophi+3人間開発報告書+3
同時に、
- トレンドが追える62か国のうち**半数〜3分の2は「このままでは2030年までの半減に届かない」**という、厳しい現実も見えています。Ophi
しかし、それは
「もう間に合わないから、あきらめよう」
という意味ではありません。
むしろ、
- どの国が・どの層で・何が原因で遅れているかが、かつてないほど明らかになりつつある
- 成功している国々の「レシピ」も、かなり共有されてきた
という点では、ターゲット1.2は「見えない敵」ではなくなってきているとも言えます。
2030年まであと数年。
グローバルな政策レベルはもちろん、地方自治体、企業、市民の一つひとつのプロジェクトが、
「多次元の貧困」を意識して設計されるかどうかが、ターゲット1.2の達成度を大きく左右していきます。
📰 ニュース1
インド が「多次元貧困から2億5,000万人以上を脱出させた」と発表
- インドの労働雇用大臣 Mansukh Mandaviya 氏による発表で、過去10年間で約2.5億人が多次元貧困から脱したとされます。 The Economic Times
- 背景には、福祉プログラムの統合、デジタル技術の活用、教育・保健・生活インフラの改善などが挙げられています。
- このニュースは、「ターゲット1.2:あらゆる次元の貧困状態を半減させる」という観点から、 部分的に成功している好例 と言えます。
- ただし、「脱した」という数字が実際の生活改善(教育・健康・収入など)までどの程度反映しているか、詳細なモニタリング・分析が必要です。
📰 ニュース2
メキシコで記録的な貧困削減:2018〜2024年で13 百万以上を脱出
- メキシコでは、2018年から2024年にかけて貧困率が約42%から29.6%に低下し、1 300万人以上が貧困から脱出したと報じられています。 Le Monde.fr
- その要因として、最低賃金の引き上げ、労働市場改革、社会保障の拡大などが挙げられています。
- しかしながら、記事では「教育・保健分野での改善が限定的」「非正規雇用が多数を占める」などの課題も指摘されています。
- これは、「所得だけでない複数の次元(教育・保健・インフラ)での進展が不可欠」というターゲット1.2のメッセージを裏付けるものです。
📰 ニュース3
フランスで過去30年で最悪レベルの貧困・格差:高所得国でも脆弱な層が拡大
- フランスでは、2023年時点で「貧困線以下に暮らす人びと」が約15.4%、およそ9.8 百万人に達し、30年ぶりの高水準となっています。 Le Monde.fr
- 雇用者の中の貧困、シングルペアレント家庭の貧困、子どもの貧困の増加などが深刻です。
- これは「貧困=途上国の問題」という捉え方がもはや通用しないことを示しており、ターゲット1.2が “すべての年齢・性・場所” を対象にしている意義を再確認させます。

