【SDGs目標1】1日約3ドル未満(見直し前は1.25ドル)の“極度の貧困”を終わらせるために
ー 最新の定義・達成度・課題・そしてこれからの展望 ー
世界が掲げる、国連(UN)の持続可能な開発目標(SDGs)第1目標「貧困をなくそう」。中でもターゲット 1.1 は、「2030年までに極度の貧困を、あらゆる場所で終わらせる」という、極めて大胆かつ社会変革を伴う挑戦です。
■ 最新の「極度の貧困」定義:1日1.25ドルから約1日3ドルへ
かつて「1日1.25ドル未満」という水準が、極度の貧困(extreme poverty)を表す国際的な基準としてしばしば引用されていました。
しかし最近になって、世界銀行(World Bank)が国際比較プログラム(PPP:購買力平価)を更新し、低所得国の典型的な貧困線を反映して、**「1日あたり3.00米ドル(2021国際ドルベース)」**を新たな国際貧困ライン(International Poverty Line, IPL)と設定しました。世界銀行+2Our World in Data+2
言い換えれば、世界標準で「1日1.25ドルで暮らす人」という定義はもう最新ではなく、「1日3ドル未満で暮らす人」が“極度の貧困”と捉えられるようになっているのです。Our World in Data+1
この変更により、貧困とされる人数が増えた(つまり、基準が上がったために新たに“貧困”の範囲に含まれる人が125 百万(1.25億人)追加された)という報告もあります。Our World in Data
このような更新があった上で、2030年までに「極度の貧困を終わらせる」という目標は、これまで以上にハードルが高くなったと言えるでしょう。
■ 現在の達成状況:改善の流れ+新定義での後退リスク
◎ 過去からの改善
1990年代から2010年代にかけて、世界的には極度の貧困の割合が大きく減少しました。あるデータでは「過去35年で15億人以上が極度の貧困から脱出した」とも言われています。Our World in Data+1
特に中国東アジア・太平洋地域、南アジアでは、経済成長+インフラ整備+教育普及という好循環が働き、貧困削減に成功してきました。
◎ 新定義とそのインパクト
しかし、上述の通り、国際貧困ラインが「1.25ドル」→「3ドル」に上方修正されたことで、見かけ上の「貧困人口」は大きく膨らんだとも言えます。例えば、世界銀行によると「2022年時点で、約8億3,800万人が1日3ドル未満で暮らしている」との試算も出ています。世界銀行+1
つまり、基準が引き上げられた分、達成すべき目標の“壁”が高くなったと言えます。
◎ 地域別の状況
多くの貧困国は、成長ペースが鈍化していたり、気候変動・紛争・パンデミックの影響を強く受けています。特にサハラ以南アフリカでは、極度の貧困人口がなかなか減らず、むしろ停滞または増加に転じているという報告もあります。Our World in Data
■ 課題:基準見直しがもたらす現実の重み+構造的障壁
1. 基準の引き上げが示す「より現実的な」貧困ライン
「1日3ドル未満」という基準は、単なる“昔の1.25ドル”では語れない、今日の価格・物価差・購買力を反映したものです。つまり、貧困の定義そのものが進化しており、これを「クリアする」ためには、かつて以上の資源・仕組みが必要です。
この修正を無視して「今も1.25ドルで考えろ」という議論では、貧困の深刻さや現実の暮らしの厳しさを過小評価してしまう恐れがあります。
2. 構造的・複合的な障壁が多い
- 教育・保健・インフラ・雇用・ジェンダー・環境変動・紛争など、複数の要因が貧困を維持しています。前回も触れた通り、単なる「お金の不足」ではありません。
- 人口増加+都市化+環境災害などが、貧困国の成長を抑えています。
- 貧困削減の鍵を握る「低所得国での成長率」「投資環境」「制度の安定性」が、十分に整っていない国が多いのも現状です。
3. データとモニタリングの限界
貧困層データの多くは国勢調査・家庭調査・消費世帯調査に依るため、途上国ではデータのタイムラグ・欠落・比較困難性が高いです。さらに、定義変更(PPP更新など)によって過去比較が難しくなるという問題もあります。データバンク+1
■ 今後の展望:目標達成に向けたカギとアクション
▶ 年限との勝負
「2030年までに1日3ドル未満で暮らす人をゼロにする」という目標は、定義見直し後ではかなり難易度が上がっています。進捗ペースを大きく加速させなければ、目標達成には至らない可能性が高くなっています。
▶ 成功要因・加速のポイント
- 包括的支援:単独での給付金ではなく、教育・医療・職業訓練・インフラ・制度改革を組み合わせた“パッケージ支援”が鍵。
- 成長を伴う開発:低所得国で持続可能な成長を実現し、雇用を創出し、生活水準を引き上げる。
- 民間・地域主体の参画:地域の起業・女性のエンパワーメント・地元資源の活用(まさにあなたのご関心分野:地域活性化×SDGs×ブランド展開)など、現地主体モデルの拡大。
- データ・モニタリング強化:リアルタイムに近いデータ収集・分析を行い、進捗を可視化して改善を促す。
- 柔軟な定義検討:国・地域によって「貧困」の実態が異なるため、国際基準だけでなく地域別・国別のターゲット設定も重要。
■ まとめ:定義改定によって挑戦はより大きくなったが、希望も増えた
「1日1.25ドル未満」という昔の定義が、今は「1日3ドル未満」という新しい国際基準になりました。これは、 “極度に困窮した暮らし” をより正しく捉えようという世界の動きの表れです。
そのため、2030年までに「極度の貧困を終わらせる」という目標の実現可能性は、以前より厳しいものになっています。
しかし、裏を返せば、 正しい定義で課題を捉え直すことで、支援の精度も高まる という前向きな側面もあります。
貧困削減を進めるためには、「定義をアップデートする」「現場の仕組みを革新する」「成長と包摂を両立させる」この三つを同時に動かす必要があります。
2030年まで残された時間は限られています。だからこそ、地域・企業・市民一人ひとりのアクションが問われています。
あなたが取り組んでおられる「地域ブランド」や「SDGs×事業化」の活動も、まさにこのグローバル目標に貢献できる“ローカルで具体的な一歩”になり得ます。
― このブログを通して、私たちが“貧困”という言葉をもう一度リアルに捉え直し、アクションにつなげていければ嬉しいです。

